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大阪地方裁判所 昭和33年(ソ)9号 決定

抗告人 松下敬太郎

主文

本件抗告を却下する。

理由

本件抗告の趣旨並びに理由は別紙記載のとおりである。

支払命令申立の却下決定に対しては不服を申立てることができないことは民事訴訟法第四百三十三条第二項に明定するところで右決定は即時抗告を以て不服を申立てることができない決定であるから同法第四百二十九条第四百二十条によつてこれに対しては再審の申立はできないのである。

然しそれにもかゝわらず右の決定に対し敢て申立てられた再審の管轄も同法第四百二十九条第四百二十二条第一項によつて右決定をした裁判所に専属するものと解すべきである。

これを本件について見るに抗告人は、抗告人の申立てた大阪簡易裁判所昭和三二年(ロ)第一〇一一号支払命令申立事件について同裁判所が同年十月二十五日その支払命令の申立を却下した決定に対し再審の申立をしたものであるから右再審事件の管轄は右大阪簡易裁判所に専属するものというべきである。

而して専属管轄は公益的立場から定められておるもので裁判所や当事者がこれを変更することのできないものであることはいうまでもないことである。

抗告人は前記支払命令申立却下決定が簡易裁判所の決定であるから裁判所法第二十四条第三号により、その再審事件の管轄は地方裁判所に属すると主張するが再審は上訴ではなく、又民事訴訟法第四百二十九条第四百二十二条の規定がある以上、右裁判所法第二十四条第三号に依ることはできず又上訴の規定を類推することの適当でないことも勿論である。

次に抗告人は前記再審事件は民事訴訟法第二十四条第一項各号に定める事由があるので同法第三十条第一項或は第二項に基いて神戸地方裁判所に移送すべきであると主張するもののようであるが、例え右第二十四条第一項各号の事由が存在したとしても大阪簡易裁判所乃至当大阪地方裁判所は前記再審事件の管轄裁判所を神戸地方裁判所と指定できないことは勿論であるし右再審事件は前記のように大阪簡易裁判所の管轄に専属するものであるから民事訴訟法第三十条第一、二項によつて神戸地方裁判所に移送することのできないことも明かである。

以上いずれの点よりするも抗告人の移送申立は理由がなく、これを却下した原決定は相当であるから本件抗告は却下すべきものとして主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 常安政夫 高田政彦)

即時抗告

昭和三二年(ニ)第一号再審申立に関する昭和三三年四月二日移送申立事件に対して昭和三三年四月二三日送達を受けし昭和三三年四月一六日付決定(同月二二日大阪上本町郵便局後0-6発信)に対し次により即時抗告する。

一、同却下決定は訴訟手続違法なり

1 それは同再審申立に係る支払命令申立事件は原告の言う判事としての裁判官の報酬に関する国に対する諸給与の請求事件なるため、裁判所法第三三条第一項及裁判所規則にて国に対する諸給与の請求裁判権は地裁にありと定めある点(大阪高裁備付実務提要)に鑑み原告の移送申立は正当行為なり

2 再審裁判権は裁判所法第二六条第二項第三号により再審の申立は上訴同等行為にして控訴、抗告、及上告同等審なりと解し得るが故合議体裁判制に拠るべきであり同法第三五条に定める簡裁裁判事務原則(一人単独裁判制)と併せ考うるも移送の申立は妥当なりとの理由による

3 さて移送申立理由について考うるに民訴第二四条第一号に該当するとの理由に関しては

法律上としては前第一号の理由により事実上としては前第二号によるの他

該再審申立に係る支払命令申立事件は行政訴訟事件なるも督促手続即略式手続によるものとしてその専属裁判管轄権はその土地管轄に関する場合の他は第四三〇条及第四三一条により適法なるもこれに対する債務者(被告側)の第四三四条以下の訴訟手続に関しては第四四一条によるの場合は勿論第四四二条適法異議に基く正式裁判権は裁判所法第三三条第一項及裁規に定めるところにより「訴訟物の価格の如何に拘らず地裁に訴の提起ありたるものとしてその専属管轄は地裁に移行すべきものと解せられる。

又第四三四条第二項以下に於て支払命令発行後に於ける債務者に関して定めるところの異議申立及これに基く訴訟手続は第四三四条第一項に定めるところの債務者不審訊主義(第一二五条第三項に所謂同第二項例外規定)による対債権者審訊のみによる裁判過程に対する不平等充足背反規定なるに鑑み、又第四三三条第一項の却下決定に対する不服を申立得ざる裁判に関する第四一九条の二に規定する特別抗告(含第一〇条該当行為即憲法第八二条違反)によるの他第四二〇条以下の再審規定があり本申立に係る再審の申立その原審である支払命令申立に対する決定(第四三三条第一項による却下)が大阪簡裁職員の虚偽公文書作成同行使職権濫用行為なりとして第四二〇条第四号該当行為対する正当防衛としての第四二九条相当行為なると共に、第四一〇条該当訴訟手続違法を理由とする第四二一条による正当防衛行為並憲法第八二条の裁判及判決公開規定違反(第四一九条の二該当)を理由とする第四二一条に基く正当防衛行為として申立しものなるためその専属裁判管轄権は第四四一条の債務者に関する規定としての不適法異議却下に対する即時抗告相当審級なるため裁法第二四条第三号により地裁に移行すべきものとの理由による尚原告の簡裁への再審の申立行為は第四二二条に準拠せしものなるためこれ又緊急避難行為として肯定さるべきなり、依て再審裁判専属管轄権を有する地裁へ申立ありしものとして三八一条但書によるも地裁へ移行すべきなり

4 民訴第二四条第一号に該当するものとしての同法第三〇条第一項及第二項による移送を申立は第三〇条第一項による職権移送決定及同第二項前段による地裁の特別裁判権として神戸地裁の同移送申立事件管轄権を兼ねて再審の申立に関する口頭弁論期日の指定に対し管轄違を理由として移送を申立しものなり

神戸地裁へ連名して移送の申立をなせしは民訴第二四条第一号に該当するものとして直近上級裁判所(大阪地裁は前述の理由により忌避せしため)同一審級裁判である神戸地裁へ管轄裁判所の指定を申立てしものなり(神戸地裁への移送指定決定)

移送の申立理由中に第二〇条第三号とあるは該申立に係る再審申立事件が民事訴訟としての支払命令申立事件に関するものなるが故当然第二四条第三号と更正さるべき性質を有するものとして肯定さるべきなり

6 第四四一条の不適法異議却下に対する抗告審は裁判所法により他の訴訟と同様に簡裁の抗告審裁判権を与えてをらず第四四二条の適法異議に対する正式裁判権を除いては、抗告審に於いてなされる原審差戻裁判は上訴審(第二審及第三審)合議裁判制

(一) 控訴、上告及抗告各審合議制(裁第九条、第一八条及第四一四条)

(二) 簡裁、家裁裁判に対する抗告裁判権の地裁、家裁管轄による合議制(裁第一六条第二号及第二四条第三号)

(三) 上訴同等審としての再審裁判合議制(刑訴第四一五条参照)

(四) 上訴審即第二、第三審合議制

により合議制裁判によるべきであり

本件に関しては簡裁単独裁判制としての裁法第三五条に定める法律上の理由により

又、家裁に関しては裁第三一条の四第一項の単独裁判制の原則により夫々原審差戻裁判不可能なり

尚家裁に関する裁第三一条第一項但書に対する同条第二項による合議裁判制に就いても所謂家事審判法第三条によるの場合に限られ、これとて合議体に関与する参与員は一名以上とあり通常判事一名判事補一名及参与員一名の構成体となり、

更に判事の配置なき判事補単独配置個所に於ける合議体は判事補一人、参与員二名による構成体となるもこれに関しては、抗告審同様合議体による決定審なるの理由によるの他は裁第二七条第二項により判事補が同時に一人以上合議体に関与なし得ないとの規定により、参与員の二名参加関与が果して同様に規制さるべきや否やについて疑問を残すものなり。

さて家事審判規則第一九条に家裁に対する差戻裁判言々の定めあるもこれとて単に他の法律による控訴審及抗告審に関する訴訟手続に準拠せるの理由あるのみにて、原審関与裁判官除籍理由による合議体構成上より判断して員数の不足という事実上の理由により共に差戻合議裁判不可能というべきなり

尚本件に止まらず他の裁判に於ても上訴審に於ける原審差戻裁判は原審に関与せる裁判官に関する除籍規定(当事者が上訴せる事実から必然的に判断なしうる原審に対する不服を前提とする差戻後の裁判に対して先入的不公平観からくる論拠)及刑訴第一〇条による上級裁判所管轄規定(抗告裁判所を含む)並原審差戻による訴訟遅延を理由として原審差戻裁判訴訟手続を廃止し、原審差戻理由に基いて第一審に於ける適法確定事実に対する新口頭弁論による上訴審及再審裁判訴訟手続に改正さるべきである

7 ついては督促手続中第四三三条の規定は第四四一条に規定する債務者の異議申立裁判の却下理由とするのは別として尚且刑訴第一三条に所謂申立が管轄違の理由によつては効力を失はない(移送裁判あるのみ故)及第四三四条第一項(債務者不審訊主義)により全く論拠なく、債務者に関して規定せる同第二項及第四三五条以下の訴訟手続と照合するも第四三三条は削除すべきであり

従つて第四三四条第一項も当事者(双方共)を審訊せずして之を発すと改めらるべきことを附言す

8 移送申立原因中、

直近上級管轄裁判所である大阪地方裁判所その範囲を大阪市内とするを忌避して神戸地裁への移送申立し理由として、「脅迫涜職なりしことを理由とする避急避難行為により言々」とあるは「脅迫涜職を理由として大阪地方裁判所を忌避することを緊急避難行為により申立るものなり」と改める(疎明理由は変更せず申立書記載のとおりとする。)

9 移送の申立に附帯して関連請求して移送決定後の管轄裁判所にて審理さるべき事項については、現在何等言々すべき段階にあらざるため移送申立の趣旨の限度内に止むるものなり。

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